ラブ&エロスとは…?
2010年代初頭、レジェンド・ピクチャーズ製作、アルゴ・ピクチャーズ配給による映画プロジェクト「ラブ&エロス シネマコレクション」が始動しました。
これは「愛と性」という普遍的なテーマを軸に、Vシネマ出身のベテランから漫画家といった異分野の才能まで、多様な経歴を持つ監督たちが競作する、過去に類を見ない企画でした。
作品群は単館系の劇場で特集上映される形式をとり、「映画祭」のようなイベント性を持つことで、単なる映画シリーズの枠を超え、新たな映画文化を模索する「実験」としての側面も有していました。
「ラブ&エロス シネマコレクション」およびその後続シリーズが、物語性と演出、そして女優の演技が三位一体となった「良質なヌード」を提供した重要なプロジェクトであることをご紹介致します。
女優のすっぽんぽんを単なる見世物として浪費・無駄遣いされるのではなく、物語の核心、登場人物の感情の発露、そしてテーマの深化に不可欠な要素として機能していることがシリーズの特徴と言えます。
AVが性行為そのもののパフォーマンスに焦点を当てるのに対し、本シリーズはヌードをあくまで登場人物の心理や人間関係を描くための映画的手段として位置づけていました。
この明確な一線こそが、本プロジェクトの芸術的野心を示すものです。
このプロジェクトは、2010年代の日本映画界で失われつつあった表現領域、いわば「第三の道」を模索する試みであったと位置づけられます。
当時の映画市場は、性描写を避ける傾向にあるメジャー作品と物語性を排したAV産業との間に大きな断絶がありました。
本シリーズは、廃れかけた成人映画・ピンク映画が持っていた芸術的野心と、ニューウェーブ映画が探求したエロティシズムの可能性を現代に蘇らせるべく、その中間領域を開拓しようとした、とも言えそうです。

『Love & Eros CINEMA COLLECTION』シリーズコンセプトについて
劇場公開という形式を貫き、人間ドラマに主軸を置いた物語、そしてVシネマやピンク映画界の才能を起用する制作体制は、新たな成人向け映画の市場を創造するための明確な戦略でした。
提起した「第三の道」は、監督たちには商業映画では扱えないテーマを探求する自由を、女優たちには感情の深みと肉体的な勇気が求められる「身体的演技」を披露する機会を提供し、邦画における致命的な空白・欠点を埋める役割を果たしたとも言えるのかもしれませんね。
シリーズの経緯と沿革:創造の軌跡
ピンク映画とVシネマの潮流
本シリーズのルーツは、日本のピンク映画とVシネマという、二つの映像文化の伝統に深く根ざしています。
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ピンク映画の精神的継承: いまおかしんじや片岡修二といった、ピンク映画界でその手腕を認められた才能の参加は、このプロジェクトの核を象徴しています。それは、低予算ながらも監督の作家性を最大限に尊重し、テーマに対して自由なアプローチを許容するピンク映画の創造精神そのものです。
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Vシネマのエンターテインメント性: 一方で、石川均のようなVシネマで活躍する監督の起用や、エロティック・サスペンスといったジャンルを横断する物語は、Vシネマが持つエンターテインメント性やスピーディーな製作スタイルの影響を色濃く反映しています。
このプロジェクトは、これらのジャンルが培ってきた製作ノウハウと人材を基盤としながら、一般劇場での公開を前提とすることで、より広い観客層に訴えかける新たなエロティック映画のフォーマットを確立しようとした、野心的な試みでした。
シリーズ沿革
シリーズはその歴史の中で、形態とコンセプトを巧みに進化させていきました。
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第1シーズン『Love&Eros CINEMA COLLECTION』(2010年)
会場: テアトル新宿
形式: 観客最多動員作品に賞金100万円が贈られるコンペティション形式を採用、イベント性を重視。

第1弾シリーズを担当した監督と主演女優たち
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第2シーズン『Love & Eros 2nd』(2012年~)
会場: 池袋シネマ・ロサ
形式: 「春夏秋冬」をテーマにした上映形態、観客アンケートなどを通じて作り手と受け手の関係構築に注力。

2ndシーズンを担当した監督と主演女優たち
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『ラブストーリーズ』シリーズ(2014年~)
2014年『ラブストーリーズ』: 新宿K's cinemaにてシーズン制を取らず2本ずつ公開、賞レースの形式を廃止。
2016年『ラブストーリーズ2』: 渋谷ユーロスペースにて2週間単位で3本ずつ公開。 -
『大人のラブシネマ』(2017年)
会場: 渋谷ユーロライブ、名古屋シネマスコーレにて上映。
当初の「ラブ&エロス シネマコレクション」という名称は、セクシャルな要素を前面に打ち出していましたが、その後の「ラブストーリーズ」「大人のラブシネマ」への改称は、シリーズの焦点が変化したことを示しています。
これは、単なる「エロス」という刺激的なレッテルから距離を置き、作品の持つ物語性や登場人物の感情の機微をより強調する戦略だったと考えられます。
成人向け映画への偏見を和らげ、より幅広い観客層を獲得しようとする意図がうかがえます。
製作スタイル
公開された作品は、ピンク映画やVシネマの現場を彷彿とさせる「タイトなスケジュール」で製作されていました。
限られた予算と時間という制約こそが、本シリーズの芸術的スタイルを決定づける重要な要因となりました。
この環境下では、洗練された映像美よりも、生の感情をぶつけ合う演技や、物語の核心を突く演出が優先されます。
結果として生まれたのは磨き上げられた映像とは異なる、生々しさやにこそ価値がある独特の映画的リアリティです。
厳しい製作条件下で監督と俳優の創造性とコミットメントが濃密に凝縮され、観る者の心に直接響く作品が生み出された、と考えられています。
また、本シリーズは単に作品を一方的に公開するだけでなく、特集上映や観客アンケートなどを通じて、ファンとのコミュニティを積極的に形成していくことに注力していました。
シリーズが常に観客の反応を意識し、映画祭のような熱気を保ちながらファンと共に成長してきた歴史を物語っています。
シリーズの特徴
まず最初の大前提として…。
あくまで「エロス」の解釈・表現は作品を担当した監督に委ねられていて、たとえば「青春H」シリーズや「完全なる飼育」シリーズのように、必ずしもヌードが約束されたコンテンツには、本シリーズは当て嵌まらないということを念頭にご覧ください。
女性視点の重視
自身の漫画を原作に監督も務めた内田春菊は、女性主人公の内的・心理的な経験に焦点を当てた、紛れもなく女性的な視点をシリーズにもたらしました。
彼女の演出は、女性が抱える欲望、フラストレーション、そして自己解放への渇望を、鋭い面白さと切なさを交えて描き出し、多くの女性観客の共感を呼びました。
多彩なキャスティング
本シリーズのキャスティングは、単なる配役ではなく、極めて意図的かつ芸術的な選択でした。
多様な経歴を持つ女優が、それぞれの身体性と経験をもって役に挑むことで、物語に深い奥行きを与えています。
実力派として知られる鈴木砂羽や葉山レイコのような確かな演技力を持つ女優が、大胆かつ複雑な役柄に挑みました。
元グラビアアイドルの小松みゆきや江口ナオらが、単なるビジュアルだけでなく、陰影のあるキャラクターを体現することに成功しています。
そして、七海なな、周防ゆきこ、森下くるみといった評価の高い元AV女優が、その特有の表現力を物語の核心に迫るドラマティックな演技へと見事に昇華させました。
丸純子の存在
女優、丸純子の存在は、このプロジェクトそのものを象徴しています。
『老人の恋 紙の力士』や『オトナの恋愛事情』など、シリーズを通して繰り返し主演を務めた彼女は、まさにプロジェクトの精神を体現するに相応しい圧倒的な存在感を発揮しました
彼女が演じたのは、トラウマを抱える人妻、孤独な老人の心を癒すヘルパー、元夫への複雑な感情を抱く女性など、いずれも精神的に困難な状況に置かれた女性たちでした。
彼女はこれらの役柄を演じるにあたり、常にヌードを厭わず、キャラクターの脆弱さ、強さ、そして再生への意志を表現するための強力なツールとして用いました。
丸純子の人生の岐路に立つ女性の内面を肉体的にも精神的にも表現する卓越した能力は、シリーズ全体の芸術的品質を保証するものでした。
彼女のヌードを厭わない熱演の数々は、シリーズが追求した「物語のあるエロス」を最も純粋な形で体現していたと言えるでしょう。
第1シーズン
「Love」と「Eros」をテーマに、新しい恋愛のカタチを描くロマンティックで刺激的な映画祭『Love & Eros CINEMA COLLECTION』です。
2010年9月25日から11月5日にかけてテアトル新宿で第1回が開催されました。
コンペティション形式で行われ、観客動員数1位の作品には賞金100万円が贈られました。
第1回の受賞結果は以下の通りです。
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優勝(賞金100万円):『島田陽子に逢いたい』いまおかしんじ監督 ※動員数、観客投票ともに1位
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テアトル賞(動員数2位):『愛するとき、愛されるとき』瀬々敬久監督
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マイシアター賞(観客投票2位):『老人の恋 紙の力士』石川均監督
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シスレー賞(新人賞):『お前の母ちゃんBitch!』内田春菊監督

リバイバル上映 ポスター
また好評につき2ndシーズンが製作され、公開時には1stシーズンの全6作品を1週間限定でリバイバル上映がされました。
期間中は連日、監督やゲストによるトークイベントも開催され、大変盛況だったそうです。
作品一覧
メモ
シスレー賞を受賞した、監督・内田春菊×主演・鈴木砂羽による異色の家族ドラマです。
自由奔放すぎる母親と彼女に振り回される思春期の息子の、危うくも切ない関係を軸に、常識外れの愛とエロスを鮮烈に描写されています。
さらに亜紗美が見せる体当たりのヌードも作品に深みを与え、タブーに踏み込みながらもコミカルさと愛情が光る傑作に仕上がっています。
メモ
シリーズ最高傑作と名高い作品、これまで真正面から語られることの少なかった高齢者の愛と性を深い尊厳と共に描ききった画期的な一作で、マイシアター賞を受賞。
大ベテラン、ミッキー・カーチスが体現した、少年のように純粋な心と老いてなお深い味わい。そのすべてを、丸純子はまるで聖母のような包容力で受け止めます。
本作で丸純子が見せるヌードの魅力は、まさにその包容力の究極的な表現にあります。
相手の孤独や純粋さ、その人生のすべてを慈しむ「魂のヌード」です。
成熟したその裸身は、観る者に官能よりも深い、聖なる感動を与え、この二つの魂が織りなす物語は観る者の心を静かに、そして深く揺さぶる傑作と言えるでしょう。
作品名 | 愛するとき、愛されるとき |
公開日 | 2010年10月9日 |
監督 | 瀬々敬久 |
出演 | 江澤翠、河合龍之介、晶エリー、志賀廣太郎、吉岡睦雄、伊藤猛 |
メモ
邦画史に残る過激すぎる問題作でテアトル賞を受賞。
主演・江澤翠の圧巻の体当たり演技が光り、全編に大胆なすっぽんぽんを詰め込んで「愛と性」というテーマに勇猛果敢に挑む姿は圧巻の一言に尽きます。
単なる官能映画に留まらず、エロスと物語の融合を試みた監督の信念が宿る挑戦的な一本に仕上がっています。
メモ
観客動員レース最多動員、観客最多投票を記録した作品。
伝説の女優・島田陽子本人を巻き込んだ衝撃作、監督自身のどうしようもない日常が、体当たりヌードを交えて赤裸々に描かれています。
手の届かない“聖”なる存在への憧れと、泥臭い“俗”のセックス…この強烈な対比が生むユーモアと哀愁が、本作のセクシーさの神髄です。
メモ
人気女優・春菜はなが、気まぐれでふしだらな“子猫”を熱演。
恋人である芸人ヒロシの部屋で、他の男と無邪気に体を重ねるなど、そのヌードはとにかく自由で大胆不敵です。
豊満な裸体で男たちを次々と翻弄していく、エロティックでどこかコミカルな物語となっています。
メモ
主演・小松みゆきが、満たされない人妻の秘めた欲望を体現。
年下の男と過ごしたただ一度の特別な夜、絡み合う肌が心の乾きを潤していく。
彼女の隠された情念が溢れ出す、濃厚で官能的なヌードシーンは必見です。
一夜の煌めきと切なさを描く、大人のラブストーリーに仕上がっています。
第2シーズン
「ラブ&エロス 2ndシーズン」は、2012年から2013年にかけて「春夏秋冬」をテーマに、年間を通して作品が公開されたシリーズです。第1シーズンのコンペティション形式とは異なり、各季節ごとにテーマに沿った複数の作品をまとめて上映する、より特集上映に近い形式を取りました。
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公開劇場: 主に池袋シネマ・ロサで上映されました。
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特徴: 観客アンケートを実施するなど、作り手と受け手のコミュニケーションを重視し、ファンコミュニティの形成を意識した運営が特徴でした。
監督陣もいまおかしんじ、金田敬といったシリーズ常連監督に加え多彩な顔ぶれが参加し、より表現の幅が広がりました。
第2シーズンは、季節という共通テーマを設けることで、各監督の作家性や演出の違いがより際立つ結果となりました。
例えば、同じ「夏」をテーマにしても、金田敬監督が描く農村の開放的なエロスと、成田裕介監督が描く都会の湿度の高いエロスといったように、多様な「愛と性」の形が提示されました。
また丸純子、嘉門洋子といったシリーズを代表する女優が引き続き重要な役どころを演じる一方で、元AV女優の森下くるみや七海ななが主演を務め、その演技力が高く評価されるなど、女優の新たな魅力を引き出す場としても機能しました。
このシーズンを通じて、才能ある監督と女優に「物語のあるエロス」を追求する創造の場を提供する、継続的なプラットフォームとしての地位を確立したと言えるでしょう。
SUMMER
2012年夏、映画祭『ラブ&エロス シネマ・コレクション』は、シリーズの奥深さを象徴するような、極めて秀逸なラインナップを提示しました。
このシーズンの核となったのは、シリーズが得意とする「二つの王道」――すなわち「解放」と「閉塞」という、対照的なテーマです。
むせ返るような夏の湿度の中、「陽」の物語ではアイドルを目指す女性や恋に悩む少女が日常を抜け出し、刺激的な世界へ飛び込みます。
対する「陰」の物語では、家出少年と寄り添う人妻が、閉塞感の中で救いを求めるように官能的な時を過ごします。
この「田舎」と「都会」、「陽」と「陰」を見事に描き分けたラインナップは、プロジェクトの多面的な魅力を改めてファンに印象付け、2012年6月16日から7月6日にかけて池袋シネマ・ロサで上映され、好評を博しました。
メモ
最優秀作品賞を受賞した作品。
田舎の農村を舞台にした、カラッと明るい開放的なエロスが特徴です。
主演の嘉門洋子が演じる主人公は生命力に溢れ、そのエロスはどこか健康的でユーモラスですらありました。
ピンク映画が持つ「おおらかさ」や「庶民性」を受け継ぐ、シリーズの一つの柱です。
メモ
人気グラビアアイドル・浜田翔子が主演し、グラビアでは見られない大胆なエロスに挑戦した意欲作です。
持ち前の太陽のような明るさと可愛らしさはそのままに、初々しくも体当たりの濡れ場を熱演しています。
緒川凛が見せる、本格的なヌード演技も必見です。
ファンの誰もが夢見た「理想の彼女」の姿がここにあります、甘く少し切ない等身大の恋物語に仕上がっています。
メモ
都会の闇に、シリーズの顔・丸純子がヌードで美しく舞います。
過去のトラウマから逃れられない女性を演じ、その心象風景を映し出すかのように、痛々しくも美しい姿を演出、それは息が詰まるほど濃密で閉鎖的なエロスの象徴であり、観る者の心を強く締め付けます。
Vシネマのサスペンスと王道メロドラマの系譜を受け継ぎながら、単なるお色気シーンで済ますことを許さない、人間の孤独と救済を描いた重厚な物語が展開されます。
シリーズの中でも特に異彩を放つ、見逃せない一作となっています。
AUTUMN
2012年秋、『ラブ&エロス シネマ・コレクション』のセカンドシーズン第二弾 "Autumn" は、観る者を非日常の世界へと誘いました。
ストリップ劇場、遊廓、そしてヴァンパイアの館――。描かれたのは、人生に迷い、愛を求める女性たちが、秘密の空間で織りなす官能的な物語です。
「実りの秋」にふさわしく、このシーズンは女優たちの才能が大きく開花した「女優の季節」として記憶されています。
特にAVというジャンルを越え、一人の俳優としての覚悟と実力を示した七海ななをはじめとする女優陣の熱演は、高く評価されました。
この意欲的な3作品は、2012年9月15日から10月5日にかけて池袋シネマ・ロサで上映され、シリーズの芸術性をさらに深化させました。
メモ
実力派・江口ナオがストリッパーとして生きる姉の光と影を、体当たりのヌードで熱演。
舞台で観客を魅了する完璧なエロスと、その裏で交錯する姉妹の激しい確執と愛情を描き出します。
汗と涙、そして女の意地が滲むそのすっぽんぽんは安っぽい見世物ではなく、生々しくも切なく観る者の心に迫る、重厚な人間ドラマの傑作となっています。
メモ
公開当時、元AV女優が本格的な映画で主演することに対し、まだ色眼鏡で見る向きも少なくありませんでした。
しかし七海ななが演じた、愛に溺れ破滅していく女性の壮絶な生き様は、観客や批評家から驚きをもって迎えられ、「単なる脱ぎ役ではない、魂の演技だ」と高く評価されました。
この作品の成功は、本シリーズが「女優が覚悟を持って、本気で演技に挑戦できる場所」であることを証明しました。
経歴や出身ジャンルに関係なく、その才能を正当に評価するというシリーズの姿勢が、多くの才能ある女優たちを惹きつける大きな要因となっていったのです。
そんな七海ななは2ndシーズン全体において最優秀女優賞を受賞することになります。
メモ
ピンク映画の巨匠・いまおかしんじが、人気女優・由愛可奈のヌードと共に描く禁断の恋物語。
許されない関係だからこそ燃え上がる、そのエロスはどこまでも切なく、そして美しい…。
AVのフィールドとは違う、女優としての魂を込めたすっぽんぽんは涙を誘い、観る者の心に深く刻まれること間違いなしです。
WINTER
2012年冬、『ラブ&エロス シネマ・コレクション』のセカンドシーズンを飾った "Winter" は、シリーズの一つの到達点とも言える、成熟したテーマを提示しました。
30年間歳を取らない美魔女、年下のバーテンダーと逢瀬を重ねる人妻、そして昔の恋に燃える元・特撮ヒロイン…。
描かれたのは、寒い冬だからこそ熱を帯びる、少し不思議なロマンスです。
この冬を彩った3作品は、2012年12月8日から12月28日にかけて池袋シネマ・ロサで上映され、プロジェクトの円熟期を強く印象付けました。
メモ
榎本敏郎監督に最優秀監督賞をもたらした、シリーズ屈指の衝撃作です。
純愛と狂気が紙一重の激しい恋を主演・森下くるみが鬼気迫る演技と体当たりのヌードで余すことなく体現しています。
全てを曝け出すその壮絶なエロスは、愛の極致と恐ろしさを観る者に突きつけ、心を掴んで離すことを許しません。
メモ
監督・廣木隆一と、伝説の女優・葉山レイコという至高のタッグが実現。
満たされない日常を送る主婦が、禁断の恋に溺れる姿を巧みな心理描写で描きます。
その心の渇きと孤独を埋めるエロスは、どこまでもリアルで切ない、観る者の感情を深く揺さぶる、大人のための傑作恋愛ドラマです。
メモ
人気タレント・矢部美穂の魅力が全開の、底抜けに明るいエロティック・コメディです。
お茶の間で見せるキュートなキャラクターはそのままに、体当たりの演技でポップなエロスに挑戦しています。
笑いと色気が絶妙に融合した、ハッピーな魅力に満ちたラブコメディとして、シリーズの中でも異彩を放つ楽しい一本となっております。
SPRING
2013年春、『ラブ&エロス シネマ・コレクション』のセカンドシーズン、その最後を飾ったのが "Spring" です。
このシーズンの主役は、家庭と禁断の恋の間で心が揺れ動く「人妻」たちでした。
映画から抜け出してきたかのようなヒロイン、過去に秘密を抱える女性、そして新たな恋に身も心も輝かせる人妻…。
様々な状況に生きる彼女たちの、官能的で切ない愛の形が描かれました。
一年間にわたるセカンドシーズンのグランドフィナーレにふさわしい、多彩な女性たちの物語は2013年3月30日から4月19日にかけて池袋シネマ・ロサで上映されました。
メモ
実力派・小松みゆきが、禁断の恋に落ちる人妻を熱演。
日常と非日常の「連結部分」で激しく揺れる、主人公の心と身体を鮮烈に描きます。
罪悪感と快楽が入り混じる、切なくも官能的なエロスが胸に迫る、大人のためのメロドラマです。
メモ
難病を克服した実力派・吉井怜が、夭折した女優という難役を熱演しています。
亡き恋人が遺したフィルムの中だけで蘇る、彼女の美しくも儚いエロス。
愛と死、そして映画作りへの情熱がスクリーン上で交錯する、涙なしには見られない切なくも感動的な物語です。
メモ
人気女優・七海ななが、背中に彫り物を背負う「極妻」を体当たりで熱演。
組長の妻という宿命と許されぬ恋の狭間で揺れる女の、激しくも切ないエロスを描きます。
仁義と愛に引き裂かれる、その覚悟と情念が観る者の胸を打つ王道の任侠メロドラマです。
ラブストーリーズ
人の「愛」という普遍的な感情を、ロマンティックかつ刺激的に探求する恋愛映画プロジェクト。
当初は6人の監督がそれぞれの個性で新しい「LOVE」の形に挑みましたが、2014年にシリーズは『ラブストーリーズ』へと改称し、大きな転換点を迎えます。
その名の通り単なる「エロス(性愛)」の刺激だけでなく、より深く切ない「ラブストーリー」に焦点を当てることで、人間ドラマや登場人物の感情の機微を前面に押し出しました。
これにより女性客を含む幅広い観客層の支持を獲得します。
エロティックな描写も、物語の必然性から生まれる質の高いヌード表現へと進化を遂げ、大人のための上質な恋愛映画としての地位を確立しました。
特に高齢者の性愛という難解なテーマを真摯に描いた『老人の恋 紙の力士』の成功は、このシリーズが持つ芸術的な可能性を広く知らしめる象衆徴的な一作となったのです。
作品一覧
メモ
魂の渇きを癒す「聖なるエロス」と呼ぶに相応しい作品に仕上がっています。
巨匠・瀬々敬久監督のもと、主演・佐々木心音がその美しいすっぽんぽんで、傷ついた男を救う聖母を体現します。
彼女が披露するヌードは官能を超えて深い救いと生命力を観る者に与える、感動的な人間ドラマの傑作です。
メモ
シリーズの顔、丸純子が、満たされない日常に生きる人妻の心の渇きと再生を、体当たりのヌードで体現。
年下の男との秘密の逢瀬でだけ女の顔を取り戻す姿を、惜しげもなく晒した裸身で演じます。
その罪深くも甘美なエロスは、悦びと哀しみが交錯する、大人のための濃密な恋愛ドラマです。
メモ
実力派・桜木梨奈が、終わりゆく恋に全てを捧げる「愛人」を、体当たりのヌードで熱演。
これが最後の夜と知るからこそ、より激しく求め合う二人の、痛々しくも美しいエロスとなっています。
ひとりの女性の愛の覚悟と、どうしようもない哀しみが胸に迫る、官能的で切ない物語です。
メモ
朝ドラヒロイン・宮地真緒が、ピンク映画の巨匠・いまおかしんじ監督と組んだ異色の意欲作。
ひと夏の禁断の恋に溺れる人妻の、心の解放を瑞々しいエロスで描きます。
共演の元女優・穂花が見せるヌードも鮮烈、あまりに切なくそして美しい大人のための恋物語です。
メモ
伝説のグラビア女王・嘉門洋子が、大人の女の愛と性を体当たりのヌードで熱演。
彼女が披露する円熟のすっぽんぽんは、官能的で生命力に満ち溢れています。
まさに熟した果実のような、濃密で甘美なエロスが堪能できる、大人のための物語です。
メモ
人気女優・水谷ケイが、都会から嫁いできた「農家の嫁」を体当たりのヌードで熱演。
のどかな田園風景の中で、抑圧された女性の性が解放されていく様を描きます。
大地と絡み合うような、生命力に満ちたエロスが観る者の心に深く響く、官能的な一作です。
ラブストーリーズ2
2014年の『ラブストーリーズ』シリーズが好評を博し、その進化形として2016年初春に公開されたのが『ラブストーリーズ2』です。
単なる続編というわけではありません、渋谷ユーロスペースで3作品を同時上映する「映画祭」のような特別なイベントとして開催されました。
それぞれが全く異なるテイストでありながら、「大人の愛と性」という共通の核で繋がったこの3本は、シリーズの深化を象徴するラインナップとなりました。
この企画は、プロジェクトが前身の「ラブ&エロス」から『ラブストーリーズ』へと完全に進化したことの証明でもあります。
単に刺激的なだけでなく、「老い」「未練」「孤独」といった誰もが抱える普遍的なテーマに深く切り込み、それを愛と性の物語として見事に昇華させたのです。
この成功により、プロジェクトの評価は決定的なものとなりました。
作品一覧
メモ
主演・くまぎりあさみが忘れられない過去の恋に再会し、再び愛に溺れる女性を熱演。
時を経て燃え上がる、禁断でノスタルジックなエロスを描きます。
荒井まどかが披露する大胆なヌードも物語を彩る、切ない大人のラブストーリーに仕上がっています。
メモ
シリーズの顔である丸純子が単独主演を務めた作品。
『老人の恋』とは対照的に、より現実的で生々しい、女性の「今」の恋愛を描いています。
彼女の繊細な感情表現と、湿度を感じさせる大胆な濡れ場が一体となり、「物語のあるエロス」というシリーズのテーマを体現しています。
メモ
人気グラビアアイドル・瀬戸早妃が、恋に「ゆれる心」を熱演。
安定した愛と禁断の誘惑の間で翻弄される、ヒロインの官能的なエロスを描きます。
脇を固める実力派・緒川凛が見せるヌードも、物語に一層の深みを与えています。
メモ
80年代の伝説・高樹澪を主演に、ピンク映画の巨匠・いまおかしんじが描く、嵐の一夜の濃密な愛憎劇。
閉ざされた空間で剥き出しになる女の情念とエロス。
石川優実が披露する体当たりのヌードも、物語を激しく燃え上がらせる、見応えのある一作です。
メモ
80年代を代表する清純派女優・水島裕子が、母でありながら女として恋に落ちる禁断のテーマに挑戦。
息子の恋人を愛してしまう背徳的なエロスを、覚悟を決めたヌードと共に熱演します。
母性と官能が激しく交錯する、観る者の倫理観を揺さぶる衝撃作を見逃さないでください。
メモ
シリーズの顔、丸純子が、都会に生きる大人の「ままならなさ」を繊細に体現。
うまくいかない仕事、満たされない心、そして一夜の過ち。綺麗事ではない日常に潜むリアルなエロスを描きます。
誰もが抱える孤独と渇望に、そっと寄り添うような物語です。
大人のラブシネマ
日本人と韓国人が言葉の壁を越えて恋に落ちる――そんな普遍的なテーマに、日本と韓国の製作チームが共同で挑んだ意欲的な映画プロジェクトがありました。
2017年に公開された『契約結婚』と『君にあえたら 妻の恋人』の2作品です。
ヒロインには、当時グラビアアイドルとして注目を集めていた階戸瑠李と小田飛鳥を抜擢。
プロジェクトの核となったのは、「交わす言葉はつたなくても、『好き』を伝えるのは触れ合うカラダと切ない表情」というロマンティックなコンセプトでした。
言葉が通じないからこそ、より官能的で純粋な恋愛模様がスクリーンに描かれました。
これらの作品は2017年8月17日に渋谷ユーロライブで一日限定の特別上映会として披露され、その後名古屋でも上映されるなど、大きな話題を呼んだユニークな日韓合作企画です。
メモ
人気グラビアアイドル・小田飛鳥が、ピンク映画の巨匠・いまおかしんじ監督と組んだ日韓合作ラブストーリー。
偽りの「契約結婚」から始まる、言葉の壁を越えた男女の恋を描きます。
触れ合う肌だけが真実を語る、切なくも美しいエロスが観る者の胸を打つ、珠玉の一作です。
メモ
階戸瑠李が、韓国人男性との許されない恋に溺れる人妻を熱演した、日韓合作の意欲作。
言葉の壁を超え、肌を重ねることでしか互いを確かめられない、激情のエロスを見せつけてくれます。
その刹那的な愛の輝きと痛みが、観る者の心を締め付ける、切ない大人のラブストーリーです。
まとめ
「ラブ&エロス シネマコレクション」その系譜は、才能ある監督と女優たちに「物語のあるエロス」を追求する創造の場を提供し、観客に良質なヌード表現を提供し続けてきました。
ヌードを単なる見世物ではなく、物語と感情表現に奉仕させることで、商業主義的なポルノグラフィとは一線を画す独自の領域を切り拓いたのです。
それはピンク映画の芸術的伝統を継承しつつ、より広い観客に届けるための新たなフォーマットを模索した日本映画史における意義深い試みでした。
この創造の場は、作り手たちにも大きな意味をもたらしました。
監督たちは商業的なメジャー作品では扱いにくい成人向けのテーマに、制約の少ない環境で自由に取り組むことができました。
女優たちにとっては、感情的な深みと肉体的な献身の両方が求められる多面的で挑戦的な役柄を演じる貴重な機会となったのです。
特にAVやグラビアといった経歴を持つ女優たちが、そのイメージを乗り越えてひとりの俳優として評価されるための重要なステップとなった点でも、その功績は大きいと言えるでしょう。
今後の展望
配信サービスが主流となり、AIが一人ひとりの好みに合わせて作品をおすすめしてくれる現代において、劇場公開を前提とした「企画・特集型」のプロジェクトが持つ意味は、むしろ大きくなっていると言えるでしょう。
不特定多数の観客が同じ暗闇の中でスクリーンと向き合うという劇場体験は、人間の複雑な関係性や性を深く掘り下げるリスクを厭わない、作家性の強い映画にとって不可欠な場であり続けるでしょう。
「ラブ&エロス シネマコレクション」が示した道は、「大衆向け」の作品が避けがちな人間の本質に迫る映画製作の可能性を未来に向けて力強く示していると言えるでしょう。