エロス番長について
「エロス番長」は 映画番長プロジェクトの第二弾として開催されたイベントで、4本の映画が同時期に劇場公開されました。
まずは、包括シリーズである映画番長についてのご説明からしていきます。

映画番長パンフレット
映画番長とは製作・配給会社ユーロスペースによって主催された映画イベントで、 新進気鋭の若手映画監督と、界隈で重鎮と呼ばれるベテラン映画監督が、同じテーマ、同じ条件下で映画を撮影・制作し一斉に映画間で公開、一般審査員による投票によって一番秀でた作品・監督を決めるというイベントです。
ちなみに他にもコメディ映画のNo.1を決める「ワラ番長」、ホラー映画のNo.1を決める「ホラー番長」という企画も開催されています。
エロス番長シリーズは2004年夏~秋に開催され、以下の上映スケジュールで4作品は劇場公開されました。
当初は2週間だけの公開予定だったようですが、好評だったため更に2週間のレイトショーでの追加上映が実現いたしました。

エロス番長 公開スケジュール
制約・条件に付いて
そんなエロス番長シリーズですが、ただフリーで好き勝手に映画を撮っていいという訳ではありません。
テーマや予算や撮影機材など、見ようによってはかなり厳しい制約があるので、それをさらってみましょう。

心得
同型のDVカメラによる撮影
全編を『パナソニック AG-DVX100』というデジタルビデオカメラを使用して撮影していることが前提のようです。
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なるほど、、、確かに今回の4作品はいずれも近代が舞台ですが、一般的な映画作品よりどこかノスタルジックな雰囲気があり、味のある雰囲気に仕上がっています。
雰囲気が似たり寄ったりなのは、デジタルビデオカメラの弊害なのか、慣れない撮影機材を使いこなせなかったのか…監督が一番頭を抱えた条件はこれなのかもしれないです。
同一の予算内での製作
具体的な金額は公開されていませんが、潤沢な資金を積めば相対的に良い映画になりがちです。
まして、番長格の大監督と新進気鋭の刺客監督では、信頼が違いますから普通に撮影すれば用意できる製作費には歴然たる差が出ることでしょう。
予算に上限を設け工夫や閃きによってどれだけ自分の表現したい画に近づけられるか、という挑戦は面白い試みだったと思います。
そういえば低予算の割にヒロイン以外の出演女優の中に蒼井そら、冴島奈緒、里見瑤子といった具合に、数多くのファンを持つ伝説級のAV・ポルノ女優が出演されています。
脱ぎ役の女優の単価が異常に安いのか、何かしらのツテかコネで友情出演してもらったのか、あるいは監督自身に強いこだわりがあり、そこだけは予算をつぎ込んだ、真相は闇の中です。
しかし低予算映画だからといって無名女優のヌード、貧相なキャストばかりではない、という証明にはなったと思います。
エンターテインメント作品
これは正直よく分からない条件でした…。
まぁ奇を衒って、ドキュメンタリやアニメで勝負する監督がいる可能性を考慮しての牽制ですかね。
映画における広義的にはエンタメは、ほぼすべての作品に当てはまると思うので、他の制約と比べれば緩めですね。
勝敗は観客投票で決定
勝敗は劇場での観客投票に決まるらしく、4本とも視聴した一般審査員が最終日に投票が可能です。
そうなってくると順番も相当に重要視されそうなものですが…。
勝者のみ次の機会が授与
これは結局どう言った勝者への特典であり、敗者へのペナルティだったのかは定かではありません。
ちなみに「番長」の瀬々敬久はこの心得には難色を示していて、以下のコメントを残しています。
「対決に勝利した者だけが、次の機会を与えられる」とある。
なんだなんだ、「与えられる」って?どこかに貧しい下々の映画乞食に物資を与えてくださる篤志家がいるってことか。
この企画は上意下達の上からの改革ってことか。
新人は突然変異のようにあらゆる文脈を絶ち切ってニュッと湧き出るように登場してこそ輝かしいんじゃないのか。
なんだ、これは―。
各監督の映画製作において、本企画の結果が有利不利に働いたという情報は得られませんでした。
まぁ企画を盛り上げる意図で盛り込まれた方便なんだと、アメとムチがあった方が燃えるということです、今のところそう解釈するのが正解なのかもしれません。
参戦監督
日本映画 を代表する監督を「番長」と位置付け、まだまだ長編映画の監修経験の浅い気鋭の新人を「刺客」と表現し、対立的な構図を演出しています。
重鎮と呼ばれる「番長」の経験が勝るか、「刺客」の若い感性が勝るか…それこそが本企画の最大のテーマと言っても良いでしょう。
ピンク四天王の一角と呼ばれた瀬々敬久と、ピンク映画界の巨匠・渡辺護が番長枠として参戦しています。
対して長編監督の経験のない吉田良子と西村晋也が瀬々の後押しもあって刺客として参戦を決めます。
瀬々敬久
映画「ユダ」の監督・佐藤有記との共同脚本を担当。
かつてピンク映画と呼ばれるジャンルの枠内で果敢に時事問題に取り組み、閉鎖的なピンク映画業界に新しい風を取り込んだ、ピンク界の異端児であり先駆者。
その後「ピンク四天王」という誇らしい肩書をほしいままにした、現役最強と呼び声も高きピンクモンスター監督。
監督代表作:サンクチュアリ、泪壺、愛するとき愛されるとき
渡辺護
映画「片目だけの恋」の監督を担当。
ピンク映画黎明期を支えた巨匠。
TV映画などの助監督を務めたのち、「あばずれ」で監督デビュー。
200本を超えるピンク映画を裏産する一方で美保純と可愛かずみといった「脱げる名女優」を世に出した功績も非常に大きい、比類なきピンク界のレジェンド。
監督代表作:セーラー服色情飼界
吉田良子
映画「ともしび」の監督を担当。
長編デビュー作にして、すでに研ぎすまされたセンスを感じさせた当時28歳の新鋭・女性監督。
99年映画美学校第三期入学、映画美学校在学中のシナリオ課題として書かれた脚本のクオリティと高レベルな演出力が瀬々の目にとまり今回のエロス番長の参戦が決定。
参戦決定後も、瀬々からカラミのシーンを増やせなど、脚本への厳しい修正指摘をされたもようです。
監督代表作:受難
西村晋也
映画「ラブキルキル」の監督を担当。
1964年生で刺客でありながら当時40歳のオールドルーキー。
高校在学中から8ミリ映画を撮り始めた生粋の映画マニアですが、今回が長編初監督作品となります。
今回は映画美学校在学中に書いた脚本が瀬々の目にとまり、プロデューサへの猛プッシュにより参戦が決まりました。
監督代表作:Sweet Sickness
ユダ
ヌードシーン集
ともしび
ヌードシーン集
ラブキルキル
ヌードシーン集
片目だけの恋
ヌードシーン集
まとめ
ちなみに観客投票で最も評価を得て「番長」の座に輝いたのは「ラブキルキル」の西村晋也監督で、あっさり「刺客」からの下剋上は達成されました笑
まぁ投票日当日に公開されていたのは「ラブキルキル」だったので、当然と言えば当然なのかもしれません。。。
しかしながら、西村晋也がその番長特典を行使して、映画製作において何らかのVIP待遇をされたという記録は確認できませんでした。
まぁそもそも映画番長シリーズ自体が、ユーロスペースが会社を揚げての一大イベントとして定着させたいくらいの気概と熱量を感じることができましたが、運営側の思い入れの割には企画はバズらずスベって、大幅にシリーズを短縮して打ち切ったという見立てが有力だったりします。。。
公開映画の評価自体は決して悪くなかっただけに、エロス番長シリーズも第二弾・第三弾と続けていけば思わぬ名作が生まれた可能性はありました。
敗因はコメディやホラーに手を出しても同様の成果を見出した点でしょうか…。
映画やドラマにおいてエロスやヌードは完全無欠のジョーカー、話題を集めれば大ハズレを許さないキラーコンテンツですが他はそうはいきません。
ところで、サブカル評論家の阿部嘉昭氏は、エロス番長シリーズの振り返りの中で以下のようなコメントを残しました。
これらのヒロインたちはみな白磁型、静謐さと寂寥を湛えた美乳をもっている。適度の量感、小さい乳輪、淡い乳首。こういうヒロインが1シリーズに揃って蝟集するというのも、時代のひとつの「気分」なのかもしれない。たとえるなら反・叶姉妹ってこと――女たちがメディアの外でこそ着実に生きているってことだね。
要約すると、「ヌードを披露した女優は何れも美乳だった!」ってことです。
言われてみれば図った訳ではないないでしょうが、メインヒロインを務めた 岡元夕紀子、河井青葉、街田しおん、小田切理紗はいずれも痩躯で長身。
バストは大きすぎず小さすぎず、世のニーズ 男たちのマジョリティに応えたベターなバストだということに気付かされました。
「エロス番長シリーズ」の各作品は、知らない人が見れば「低予算のB級ピンク映画」と揶揄されてもおかしくないです。
ただこうやってシリーズ発足までの経緯を知り、様々な制約の中で完成させた戦果であることを理解すれば、感動は間違いないです。
そして、1作品よりも2作品、2作品よりもシリーズ制覇!
各作品にストーリー上の繋がりや関連する設定はございませんが、見れば見るほど「こっちの作品はどうなんだろう?」「次作の女の子ヌードも見てみたい!」という視聴を止めることの出来ない、そんな魔力を感じざるを得ないでしょう。